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地獄を見た

更新

032902

キリンの発泡酒『極生』。最近パッケージが変わったらしくテレビでも大きくCMを打ってますが、これを見るたびに血沸き肉踊るのですよ。いろんなものを思い出すのです。

そう、あれは日本に初めての大型野外フェスが上陸した1997年の夏。富士山の麓、富士天神山スキー場で開催された FUJI ROCK FESTIVALに、若かりし僕は友人二人と突撃したのです。

夜の高速を走る車内は Deep Purpleの Highway Starから始まり、僕の大好きな Red Hot Chili Peppers を選曲したりして前夜祭のような盛り上がり。でも実際は友人のうち一人は先週に免許を取ったばかり、もう一人にいたってはまだバイクしか乗れないというロックな状態。夜の高速をひた走り、朝の渋滞を抜けて専用駐車場に着いた時点で僕は疲労困憊でした。二人の友人も車内では全く寝ず、大きすぎる期待と高揚感に押しつぶされていたのです。

そんな僕らを待ち構えていたのは冷たい雨、そして駐車場から会場へのバスに並ぶ、先の見えない長い列。前の人にラム酒をいただきラッパ飲みでまわして体をあたためていく僕たち。友人Aはゴキゲンに呑み、友人Bは呑みすぎてバスの中で嘔吐するというロック魂を見せてくれました。

後ろに響く轟音のせいで会場の受付は何を言ってるのかさっぱりわかりませんでしたが、二日分のチケット代わりとなるプラスチック製のリストバンドを左手首にはめ、僕たちは大きなアーチをくぐって会場に入ります。ステージはハイロウズが終わり FOO FIGHTERS が用意し始めていたところで、盛んに前に行こうとする友人Aにつられ、二人してTシャツ&ハーフパンツなロックな僕たちは、長ズボンにバックパック、レインコートまで用意していた友人Bに、財布からクルマのカギまで洗いざらい預けました。

そうして始まった僕たちの野外ロックフェス。『Monkey Wrench』で気が狂うほど踊り、踏まれ続けた足元の芝はもう田んぼのようでした。興奮したらその分だけ前に進もうとする僕たちを見て、デイヴ・グロールが何度も何度もゆっくり優しく「Move baaaaaack.」とアナウンスしてくれたのに、非英語圏な会場は「Yeahhhhhhhhhhhhhhh!!」と諸手を挙げて応え、曲が始まるとやっぱり前へ突進していくのでした。

数日前のIMPホールで明らかに時差ボケだった Rage Against the Machine もこの日は熱く尖った音をぶつけてくれ、激しく大きいモッシュがいくつも起こり、観衆の体から発する湯気でステージは真っ白な霧に包まれていきました。

次の THE YELLOW MONKEYでは多くの観客がインターバルを取り、僕たち三人も大トリのレッチリにむけて意思確認をしました。僕はチャド・スミスモデルのスネアを使うくらいの大のフリーク。

「どうせ離れ離れになるやろ。入り口のアーチのところで集合な。」

そうして僕らはレッチリの渦に飛び込んでいったのです。

スコーン!

何度もCDから聞いていたあのスネアの音が響くと、僕の血液は簡単に沸点に達しました。彼らは本当にすごかった。怒り狂う空の神と闘うようにチャドがクラッシュに一太刀入れるたびに大きなしぶきが舞い、大粒の雨はフリーの引き立て役へと化したのです。

ただ、ステージそのものだけが耐えられませんでした。一曲終わるごとにスタッフがメンバーに話しかけました。身振りからそれは「危険だからもうこのあたりで終わってくれ」と言っているのは明らかだったのですが、彼らはそれを拒み続けました。「オーディエンスが期待してるんだから、そんなこと構ってられない」と言ってくれたらしいのです。

強烈な雨でありとあらゆる機材がぬれ、何度もギターの音が飛びました。中音も聞こえなかったのでしょう、彼らは耳だけに頼ることなく互いに目で確認して音を構築し、それは大きいグルーヴとなって会場を突き動かします。マイクは強い風の音も拾い外音もロクな音は出てなかったのですが、二万人と四人は確かにつながった気がしました。

しかしそれにも限界が訪れます。横殴りの雨風にステージは目に見えて軋んだのです。最後はデイブが弦を切り、フリーがベースをドラムセットに叩きつけて壊しました。そうして彼らは、『ほら、ドラムセットまで壊しちゃったからこれ以上の演奏が無理だ』という事実を作って引き上げてくれました。

その場の皆が第1日目の終焉を感じたそのとき、地獄が始まったのです。

案の定友人たちとはぐれた僕は一人、約束していたアーチを目指して進みました。二万人は一気に駐車場行きのバスの停留所に向かい、興奮冷めやらぬ僕も立っているだけで入り口まで流されたのですが、そこには引き倒されバラバラになったアーチの残骸しか見ることができませんでした。どれがアーチかわかりませんでした。

集合場所をなくした僕はとりあえず駐車場に戻ろうとバスの停留所に進んだのですが、小学校のグラウンドくらいの広さに二万人がひしめき合い、そこには全く案内がなく、みな途方に暮れていたのです。

入ってくる数少ないバスを我先にと取り合う人たちはすでに暴徒と化していました。

「これは河口湖行きです! 駐車場には行きません!」
「行けこらぁ!!」
「やめて! 押さないで!」
「痛い痛い痛い痛い痛いー!!!」
「みんなちょっと落ち着けってー!!!」
「うるさいわボケーー!!!」

絵に描いたような阿鼻叫喚の地獄絵図。数えられるほどの警備員もみなに責められ、ついには制服を脱ぎ捨てていました。

全く予想していなかった富士の寒さに雨と風が加わって体は芯まで冷えきり、目の前の信じたくない事態から逃げたい一心であてもなくさまよっていたそのとき。正面から見た顔がふらふらと歩いてきたのです。同時に目線を合わし、言葉にならない叫び声をあげて抱き合いました。友人Aでした。

これを奇跡と呼ばずしてなんと呼ぶのでしょう。今でもこの瞬間の感動だけで酒が呑めているほどなのです。

でも、彼も僕と同じような状態でした。ただ単に弱ってる人間が二人になっただけ。後にも先にも、「あ、これ、死んでもおかしくないな」と感じたのはこのときだけです。

彼と僕はなんとかスタッフを見つけ出し、とにかく助けて欲しいと願いました。混乱する無線で何度も確認し、その所在を初めて耳にする救護室へと案内してもらいます。災害の跡地のようなステージ前をぬけ、明るい体育館のような建物に入ったとたん、お姉さんが駆け寄ってきました。

「あ~あぁ、こんなにズブ濡れで! はいバンザイして!!」
彼女は泣き笑いのような顔で、手早く僕のTシャツを脱がせ、アタマをタオルで拭いてくれました。雨に濡れた捨て猫のように。僕はだまって体を預けるほかありませんでした。
「はいこれ着替えのTシャツ。それから、このビーチボールを枕がわりにしてね。」
手早くそれらを渡すと僕たちを奥の広間に通し、温かい味噌汁を運んできてくれました。本当に後光が差して、天使の輪が見えました。

「助かった・・・・けど。」
「あいつ(友達B)・・・、だいじょうぶかな。」
「・・・。」
「・・・装備もいいし、財布もクルマのキーも持ってるし。無事を祈ろう。」

そうして僕たちは、泥のように眠ったのでした。

翌朝、雨はあがりました。外に出てみると雨でぐちゃぐちゃになったステージ前に無数のスニーカーが散乱してました。カバン、ケータイ、財布、毛布、それらまでもが泥まみれで転がってました。

気にせず二日目の用意をする露店の数々。腹は減ったが一文無しの僕たちはそれらを横目に通り過ぎようとしましたが、ふと友人Aの足が止まりました。

「毛布・・・、借りるときに保証金払わされてたな。てことは、こいつを返すと・・・それが返ってくるやん! メシが食えるぞ!!」

僕たちは雨と泥でひどく重い毛布を休み休みひきずって入り口で引き渡し、ドロドロの手でカレーを食いました。仕事をする→お金をもらう→メシを食う、という流れがとてもわかりやすかった朝でした。僕たちはもう一枚毛布をひきずり、温かい汁を飲み腹をふくらせると、悠々と駐車場行きのバスに乗りました。ドロドロの僕たちは頭からゴミ袋をかぶせられました。

いつも元気でふてぶてしい友人Bならばいびきをかいて寝ていると思っていたのですが、クルマに戻ると彼は泣きそうな顔で子犬のように待っていました。車内に残していたスナック菓子を食いつなぎ、僕たちのことを心配しながら夜を明かしたらしいのです。

三人で無事を喜び合っているところに、二日目の中止の知らせがどこからともなく聞こえてきました。もう僕たちには楽しめる体力と余裕がなかっただけに、心から残念とは思わなかったのが正直な気持ちでした。

少し休んだ僕たちは京都へ向けてクルマを走らせました。途中の東名高速でフジロックツアーのバスに追いつき並走すると、中は疲れた顔でぼんやりと景色を眺める顔が並んでいます。

僕らは窓を開け、リストバンドを巻いた左手を突き出しました。バスの中の一人がこれに気づき仲間に知らせると、バス中の皆が同じく左手を掲げ、何かを叫びました。

こうして僕たちのフジロックは終わったのです。

「よく死人が出なかったもんだ。」フジロックの後、そこら中で聞こえた声がこれです。世間的には大失敗といわれ、興行的にもどう見ても赤字になったことでしょう。

でも、なんとか第一回を終わらせることができ、それに続いて続々と大型野外フェスが産声をあげました。今年はどれに行く?と悩んでしまうほどです。だから僕たちは胸を張って言えるのです。

「野外フェスは僕らの犠牲のうえに成り立っているんだぜ!」

そんな思い出がいっぱいの曲、「Monkey Wrench」。CMのプロデューサーさんが同世代だったり、ひょっとしたら会場で一度くらい肩をぶつけてるかも知れません。たった15秒のCMですが、流れるたびに振り返ってしまうのです。

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コメント、お待ちしてます

  1. masahiroさんドラムやってるんですか???
    一緒じゃないっすか!!
    チャドは荒々しい上にテクニカルだったりして結構好きですよ。
    自分は今はポンタモデルのスネアをメインで使ってますが・・・。

    初年度のフジロックは友達連中は行ったんですけど、やはり死ぬかと思ったと良く言ってますよ。
    苗場に場所を移してからのフジロックは行きましたねー。
    それからはROCK IN JAPANに毎年行ってます。
    そして今年は北海道にVWで乗りこむつもりです!うぉぉぉーー!!
    いい年なのに若者に混じって暴れてきます。

  2. やってますよー! (厳密にはやってましたよー!)
    FJ1040さんのPVも、こっそりDLしてチェキってます!

    チャドはゴーストノートが隠れてないくらいダイナミックなところがいいですね。
    PONTA BOX持ってます。狸のジャケのあれ。

    お友達はまだ余裕があったんでしょうね。
    「死ぬかと思った」んでなく、「死ぬと思った」んですよ、僕たち。
    おまけでもらった人生を楽しもうと思います。

    若者なんてダイヴの土台にしてしまえです!
    若いんだからしっかり支えろ、ほらしっかり腰入れてっつー感じで!!

  3. カリメラ

    このタイトルは。。。
    やはりそうですか。
    もはや伝説というか。
    まさに地獄絵図。
    ホントにすさまじい体験をされたのですね。

    それに比べりゃ今のフジは天国そのもの!
    年に一度のお祭りですもの。
    それもこれもあなたがたのお陰です!
    おかげサマーですっかりリピーター。
    既に早割りゲトしちゃってます。(≧∀≦)ノ

  4. 今の野外フェスなんて、女子供が見るもんだぃ!
    野外のな、しかもロックなフェスは、演るほうも観るほうも命がけでするんだよ!
    かぁー、ぺっ!!

    ・・・って、おじぃになったら言っていいですか?

    BEGINの野外音楽堂でのお祭りは、気持ちよすぎて少し寝てしまいました。

  5. ■語句【地獄を見た】の検索結果

    「地獄を見た」という言葉で検索してみました。この世の地獄とは果たしてどんな形……?!

  6. 冷たい雨 <前編>

    今日は、雨がそぼ降っている。

    体の芯まで冷やす冷たい雨。
    こんな日は外に出るのも嫌で部屋の中が
    とても恋しい。

    こんな冷たい雨の日に思い出すエピソードがある。
    プロフィールにも書いたのだけれど
    あの 第1回 フジロック のことだ。

  7. Pingback: どうしてこうなった・・・失敗に終わった伝説の音楽フェスまとめ - あんなことこんなこと

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